マネージャーいじり

若本規夫御大がゲストと言うことで、「第14回 日本語教育と音声研究会」に参加して来ました。


会場は、早稲田大学早稲田キャンパス11号館501教室。受付で名前を書く際に、バカ正直に所属大学も記入してしまいましたが、別に今日は専攻分野絡みで来たわけではないので、大学名をわざわざ晒す必要はなかったかなと後で思ったり。


13時になっても受付の列が消化されなかったため、戸田貴子教授による開会挨拶は13時5分過ぎから。御大について軽く紹介があった後、御大登場。
以下、メモに基づいて『第一部:基調講演「音声で気持ちを伝える ― 声優としての音声表現の工夫」』の内容を要約して載せます。御大が一言一句そのままの言葉を喋ったわけではありませんし、ニュアンスについては私の誤解があるかもしれないことをまず始めに断っておきます。

  • 挨拶

若本」という名前は芸名のようだが、本名。「規夫」も音は本名と同じだが、漢字は「紀夫」。「紀夫」では「キの字(気違い)の世界に入る」と言われたため、「規夫」に変えた。
しかし、キの字の世界に入らずに、常識の世界に身を置いたままでは表現することはできない。僕はキの字の世界のトップにいるんじゃないかな?

  • 方言のアクセント

母語ではない方言を話す役を演じる際は)通り一遍のアクセントでしのぐしかない。
関西弁と共通語を話せるというのは、二ヶ国語を話せるのと同じ。共通語を喋っていても、関西弁のニュアンスが出る。キツい語調が端々に出る。

  • 実際には経験したことのない背景を持つ役

プリズン・ブレイクティーバッグのような役でも、実際の経験(刑務所暮らし)がなければ演じられないということはあり得ない。身体的なイメージから推測して演じる。
役そのものになり切ることはできない。演じている自分自身を見ている目が必ずある。この目は冷静でないといけない。

  • 演じた役が日常に与える影響

ないですね。仕事だから。

  • 演じ分け

声の当て方で演じ分ける。例えば、穴子は全部後ろに声を抜いている。セルはガツンガツンと行く。ロイエンタールは二枚目なので、中心のセンターを利用する(頭頂部で垂直に指を立てながら説明)。

  • 映像がある場合の演技

映像の雰囲気、向こう(海外)の役者の意図しているものや動きに合わせる。
自分の判断で演技をするというのはリスクがある。最近の若い人は下手なアドリブをやって仕事が来なくなることを怖がって、アドリブをやらない人が多い。仕事が来なくても良いんだよ。(仕事が来ないということは)下手なんだから。
自分は画像とは異なったインパクトを与えている。そういう声優は他に殆どいない。失敗が怖いから。失敗を恐れてはいけない。
泥まみれになれ。僕は一切拒まない。どんな役でもやる。王侯貴族から墓掘り人夫まで、オカマから超二枚目まで、360度どんな役でも100%やる自身がある。
昔はオカマの役だけはできなかったが、今はできるようになった。

  • 人生経験

社会に出ると皆もみくちゃにされる。高校を出てすぐに代々木アニメーションに行って声優になっても、人間の闇まで表現できるのか?
表現の世界というのは裏が出ないと面白くない。表に見えるのは氷山の一角。本音を建前に混ぜて行ける役者にならないといけない。
映画館に行く人は、人間の業の深さを見たいがために行く。表だけ見せられても面白くない。

  • 映像がない場合の演技

声だけだとその人がもろ出しに表れる。声優の実力を判定する良い材料。

  • 日本語学習

黒人女性に「パッカマン」と尋ねられたが、それが「ポケモン」のことだとなかなか分からなかった。英語が話せないのは、英語の空気感に入って行けないから。
内部360度スクリーンになっていて、ネイティヴが次々と話して来るカプセルがあれば、外国語が話せるようになる。周りに人がいないから羞恥心も感じない。ドクター中松に作って欲しい(笑)
外国語は臨場感がないと習得出来ない。

  • シャドーイング

角田信朗ブルース・リーの映画を何回も見て真似をする内に、ネイティヴのような発音で英語が話せるようになった。浸り切るというのが大事。

  • 練習方法

声優の練習は突き詰めて行くとアスリートと同じ。イチローの訓練に僕は付いて行けないが、イチローは僕の訓練に付いて行けないんじゃないかな?(笑)
発声に関わる全ての筋肉を鍛えて行く。インナーマッスルや微細筋を鍛える。
長台詞で息が上がらないようにするには、スタビライザーが必要。僕は台詞が10分あっても声が上に上がることはない。
僕も声優の学校に行って話をすることがあるが、「声優はアスリートだよ」と言っても、誰にも分かってもらえない。
古武道、浪曲、虚無僧の尺八、大道芸など、今まで色々やった。
日本語は母音が大切。子音はコンディションによって明瞭度が違って来る。
舌は薄い方が良い。タングドリルリップロールの練習は、長い時は30分くらいやる。
母音を流すようにする。ただ伸ばすのではない。空気を流して行く。

ハミングでも母音だけでも、歌を歌うと声の鍛錬になる。

  • イントネーション

自分の1番伝えたい言葉を粘って行く。濃くして行く。

  • 印象に残っている役(以下、参加者から寄せられた質問への回答)

オオタコーチ、ロイエンタールティーバッグ。

  • 設定が少ない役を演じる場合

圧倒的に自分の好きなようにやれば良い。
僕はクライアントが収録に3時間掛かると見込んでいても、40分ぐらいで終わる。強靭な声帯だから。
8000ワードを水曜15〜21時、金曜10〜15時で収録する予定の仕事があった。家がある横須賀の方から小平のスタジオまで通うと3〜4時間掛かる。金曜朝6時に家を出るのが嫌だったので、水曜だけで収録を終わらせることにした。途中で「休みます?」と聞かれても、「休まん」と答えた。収録は15時から始まって、19時50分には終わった。椅子から立ったらふら〜とした。

  • 技術的な部分以外で気を遣っていること

俺に振り当てられた仕事だから俺がやるしかないよね。クライアントを喜ばすには思い切りやるしかない。

  • Xボンバー

覚えていないので次の質問。

  • サザエさんが日本語学習者に教材として使われていることについて

穴子は分かりやすく母音を伸ばしているので、教材として良い。
J-WAVEDJ TAROサザエさんで日本語を覚えた。
他のアニメは台詞が早過ぎて教材には向かない。サザエさんは日常のことを題材にしているのも良い。

  • ナレーション

僕の場合は、圧倒的にキャラクター的なナレーションが多い。
ナレーション収録の際にはキャラクター性の薄いナレーションも含めて何パターンか録るが、キャラクター性の薄いナレーションを使うなら俺を呼んだ意味がないよ、と捨て台詞を残して行く。

  • 一緒に働く業界人

ディレクターの中には自分の頭で作って来る人がいて、こちらの演技を「それは違う」と否定する。これでは声優とディレクターの共同作業ではない。僕という資源を
生かさないといけない。
戦国BASARA小林裕幸プロデューサーは厳しい。こちらを追い込んで来る。収録後、恵比寿のエクサスタジオから恵比寿駅東口まで歩く間に、3度くらいよろめいた。しかし、そういうのが好き。

  • 大学時代の思い出

少林寺拳法部に4年間所属していた。1発目の夏合宿が鳥取砂丘という厳しい部活だった。先輩の中には、拳立てスペシャリスト、走りのスペシャリストなど色々なスペシャリストがいて、入れ替わり立ち代わりしごかれた。
その経験は例えばティーバッグなど、格闘のシーンの演技に役立っている。殴られる箇所によってあげる声は違う(腹を殴られた時、顔を殴られて歯が3本折れた時、5本折れた時、男の大事なところをやられた時をそれぞれ実演)。
皆がつらいと言っていても、自分は鼻歌を歌えるようなのが、自分の行くべき道。皆が大企業に入る必要はない。声優にはならない方が良い(笑)
自分の選んだ道で3年やって芽が出なければ止めるべき。


14時35分、第一部終了。
講演形式で御大の話を聞くのは初めてだったので、どれもこれも興味深く拝聴しました。文字化するのが難しいので↑では省略しましたが、話の要所要所で当意即妙な実演も披露していて、さすがだあと関心することしきり。
ただ気になったのは、御大の出演作を紹介するために流された映像大滝警部登場シーンは英語のファンサブのように見えましたし、穴子の次回予告は明らかにMADでした。誰がチョイスしたのか分かりませんが、公の場で、しかも本人とマネージャーの目の前で見せるものではないでしょう。


休憩を挟んで、15時からは「第二部:研究発表」。御大目当てで来た人の相当数は休憩の間に離脱してしまいしたが、私はせっかくなので残って聞きました。
発表は2つ。古賀裕基さんによる 「声で気持ちを伝える」と、村田佐知子さんによる「声で伝えるイントネーション学習」。広く一般に開かれている研究会と言うことで、その発表内容も特に専門的知識がなくても理解出来るものだったと思います。まあ、私は純然たる門外漢ではないので、断言はしかねますが。
やはり日本語教育研究科の研究会だけあって、ものごとを日本語教育の観点から実践的に分類するんだなあと、そんな印象。
村田さんの発表を聞きながら、負の母語転移の例としてロシア語の疑問詞疑問文を思い浮かべたら、その後挙げられた実例が「Что это?」「それはなんですか」で、伊達に趣味が語学ではないなあと自画自賛してみたり。


最後に戸田教授の言葉があって、16時10分、閉会。